独立FPの独白ブログ

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■笹本稜平「時の渚」に涙!


時の渚 (文春文庫)

時の渚 (文春文庫)


ブログを書くようになって以来、本を読む姿勢に少々変化が生じたかも知れません。
何かにつけてブログのネタになりそうな出来事を探す意識が根付いていて、テレビや映画を見たり本を読んだりするたびに、ブログネタとしての価値があるか否かを判断することが習慣になっています。


別に批評家ではないので、小説や映画を紹介することの主旨はあくまでも「私としてどう感じたのか」をお知らせする、「生活にちょっとだけプラスになる情報の提供」というだけのことであって、様々な作品についての芸術的評価や文化的価値を論じることなど一切考えておりません。(当たり前です)
なので、単純に、あまり面白くなかった作品については触れることもなく過ぎてゆく訳なのです。


「読書」カテゴリーで前回紹介した本は「死亡推定時刻」ですが、これは本当に面白かったので、その後に読んだ本がどうにも(相対的に)霞んでしまい、しばらく本の紹介ができなかったのです。特に力んで紹介する気にはならなかった3冊の本は、
今野敏「青の調査ファイル」(講談社文庫)
坂木司「青空の卵」(創元推理文庫
志水辰夫「行きずりの街」(新潮文庫
だったのですが、とくにつまらない本であると言うことでもありませんし、少し違った精神状態で読んでいればもう少し面白く感じたかも・・・とも思えるような具合でありました。ここ数週間気持ちが落ち込んでいた影響もあるかも知れません。


そしてこのたび、めでたく、ブログで紹介したくなる本に久々に出会いました。それが笹本稜平:著「時の渚」です。
私はいわゆる「ハードボイルド」ジャンルの読書経験が希薄なのですが、少ないながらも今まで読んだ日本製ハードボイルド小説に関しては「いかにもクサイ」「カッコつけすぎ」「主人公があまりに頑固過ぎて奇妙」「ヘタすりゃあ陳腐」というような、なんというのか「短い足でタップダンス」というような変な感じがするものが多く、いまだ感動を味わうには至りません。(「テロリストのパラソル」は面白かった)


このたび初めて読んだ笹本氏はどちらかというと「ハードボイルド」タッチの小説を書く作家のようで、この作品も謎解きミステリというよりもハードボイルドテイストの探偵小説というようなムードの小説なのですが、「いかにも・・・・・」のいやらしさがほとんど感じられませんでした。


登場人物も自然な感じで嫌味が無く、わざとらしくなく、共感しやすいまともな人達で、文章もきちんとしていながら固すぎず、話の展開もうまいし、とにかく大変に上手なストーリーテラー振りだと感じました。
親子の情の深さについて切々と語られる最終章部分では、どうにも涙が止まらず読み進むのに苦労しましたが、全体的にすらすら読めてしかもキチンとした重みを感じつつページを括ったのでした。
話の展開は「そんなにも偶然が重なるものだろうか」との疑問が浮かばないわけでもないのですが、ふと思えば、人生はすべて「驚くべき偶然の積み重ね」で成り立っているものということを思い出し、文章や台詞回しの自然さが、そんな余計な邪念を払い落としてもくれるのでした。
少なくとも次に読むこの人の作品に大いに期待できる作家がまた一人増えて、大変に幸せな週末となりました。