独立FPの独白ブログ

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健康について考える~4

ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとどまりたるためしなし
鴨長明による鎌倉時代の随筆『方丈記』にしるされたこの有名な書き出しの一節に私が初めてふれたのは国語の教科書ではなく、小~中学生時代に読みふけっていた白土三平の大作漫画「忍者武芸帳」最終章での無風道人のつぶやきでした。(このフレーズ当ブログで前出…)
ガキンチョの私がこの言葉から哲学的な思考の旅を開始した・・・などということは一切なく、久しく忘れていたわけですが、それをあらたな感動を伴って思い起こさせてくれたのは分子生物学者・福岡伸一ハカセの著書でした。(2008年6月29日記事あり)


氏の最初のベストセラー「生物と無生物のあいだ」で目からうろこを落としながら知った生物の基本的な特徴が「動的平衡」の状態であり、それを文学的な表現になぞらえると、ゆく河の流れ…になるのです。人間の肉体を形作る細胞は常に生まれ変わり続けていて、現在の私は物質的には数か月前の私とは別のものだという神秘的な真実。これら生命体の真相をあらためて、大変親しみやすい文体と興味深い切り口で教えてくれるのが、氏のベストセラー「動的平衡」です。

動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか

動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか

我々生命体の身体はプラモデルのような「静的な」パーツから成り立っている分子機械的存在なのではなく、パーツ自体のダイナミックな流れの中に成り立っている。私たちが食事で食べたものの分子は瞬く間に全身に散らばり、一時そこにとどまり、次の瞬間には身体から抜け出てゆく。
そのことから私たちが学ぶべきことは大変多いわけですが、そのひとつに「各種の健康神話」を再検討する必要性も含まれています。


まずは、ある有名な健康補助物質(?)に関して福岡氏がずばり指摘している文章を少し長いですが引用します。

コラーゲンは細胞と細胞の間隙を満たすクッションの役割を果たす重要なタンパク質である。肌の張りはコラーゲンが支えていると言ってもよい。
ならばコラーゲンを食べ物として外部からたくさん摂取すれば衰えがちな肌の張りを取り戻すことができるだろうか。答えは端的に否である。食品として摂取されたコラーゲンは消化管内で消化酵素の働きにより、ばらばらのアミノ酸に消化され吸収される。コラーゲンはあまり効率よく吸収されないタンパク質である。消化されなかった部分は排せつされてしまう。一方、吸収されたアミノ酸は血液に乗って全身に散らばっていく。そこで新しいタンパク質の合成材料になる。しかし、コラーゲン由来のアミノ酸は、必ずしも体内のコラーゲンの原料とはならない。むしろほとんどコラーゲンにはならないと言ってよい。

ここまで読んで「ええええええーーーーーーーっ」と驚いた方もおられるでしょう。
食べたコラーゲンは胃袋で消化されてコラーゲンではなくなってしまい、そして分解されたアミノ酸は体内でコラーゲンに再形成されることは、ほぼないのです。更にコラーゲン幻想への批判は続きます。

ついでに言うと、巷間には「コラーゲン配合」の化粧品まで氾濫しているが、コラーゲンが皮膚から吸収されることはありえない。分子生物学者の私としては「コラーゲン配合」と言われても、「だから、どうしたの?」としか応えようがない。

つまり、そういうことなのです。では、雑誌や新聞で大々的に宣伝しているあのコラーゲン商品は全部インチキなのか・・・。たまたま今朝の朝刊に派手なカラー広告をみつけたので、さっそくチェック。そして超微細な文字も含めてすべてを改めて読んでみて、笑いました。
その広告に書かれているのは、無味無臭で食べやすい、溶けやすいので手軽で続けやすい、少量なのにコラーゲンがたっぷり、お値段がお手頃、沢山売れてますといった周辺情報ばかりです。
ユーザーのコメントにしても『「なんでそんなに元気なの」と聞かれるんだけど、よく考えてみたらコラーゲンは飲み続けてるなって思いました。』などという効き目があるともないとも分からないものです。コラーゲンのおかげで健康です、なんて一言も言ってないのです!!


要するに「コラーゲンを飲むと体内のコラーゲンが補充されてお肌の健康、身体の若々しさが保てます」などということは決して書かれていないのです。なんと功名な!
これを読んで飛びつく消費者は「コラーゲンはお肌に良い」という幻想を自分で勝手にイメージして、なんら具体的な効能が記されていないこの商品を購入するのです。世間にあふれているコラーゲン幻想の情報を背景にして、あえて効能に触れない(効能はないのですから当然です)という不思議な宣伝なのでした。

なるほどなあと感心したところで、動的平衡に目を戻しました。次のようにも書かれています。

これと同じ構造の「健康幻想」は実は至るところにある。タンパク質に限らず食べ物が保持していた情報は、消化管内でいったん完膚なきまでに解体されてしまう。関節が痛いからといって、軟骨の構成材であるコンドロイチン硫酸やヒアウロン酸を摂っても、口から入ったものがそのままダイレクトに身体の一部にとって代わることはありえない。構成単位にまで分解されるか、ヘタをすれば消化されることもなく排泄されてしまうのである。


あ~あ、健康産業は本当にとんでもないことになっているのだなあ。わけの分らん金融業界と通じるところがありそうだ。
ともかく、薬品、食品、ダイエット、メタボ対策、運動療法、などなどの健康対策を取り入れる前に、まずは生物である自分の身体とそれを取り巻く自然環境などの本質的なところを理解するべく、この本を熟読されることを強くお勧めいたします。