独立FPの独白ブログ

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ふたたび『夏への扉』!

夏への扉[新訳版]

夏への扉[新訳版]

海外小説の訳本でしっくりくる翻訳に出会うのは簡単ではないという主旨のことを先日書いたばかりでしたが、その簡単ではない出会いを幸運にも体験できました。ブログやHPで何回か紹介しているSFの巨匠ハインライン作「夏への扉」の新訳本(小尾芙佐・訳)です。


同じ早川書房から文庫版で出ている旧版は故・福島正実氏の1964年の翻訳ですが、氏はれっきとしたSF作家でした。かつまたSFマガジン編集長を創刊時から10年もつとめていた人で、いわば日本SF界の第一人者、当然ながらSFファンの元締めみたいな、SFのプロ中のプロですから、さすがにその翻訳は大変素晴らしいものなのです。
(5年ほど前の私のブログ⇒お奨めのSF小説…と尋ねられたら


昨年発売された新訳版の訳者である小尾芙佐さんは、20代後半に海外ミステリ翻訳の仕事を求めて早川書房の福島氏を訪ねて、その後SFの翻訳をてがけるようになったのだそうです。その小尾さんがいわば師匠ともいえる福島氏の面影を思い起こしながらあらたに翻訳したこの名作SFの新書版は、ハインラインの文章のさわやかさとスピード感とユーモアを十分に伝えてくれていると思います。


そして、約15年ぶりくらいに読んだ「オールタイムベスト1SF」であるこの小説の面白さを旧版同様に楽しませてもらいました。
オリジナルの発表が1956年、物語のスタート時点がその頃から見て「近未来」の1970年、ある種のタイムトラベルで移動するのが30年後の2000年です。過去を捨てて未来に跳んできた主人公は2000年が大好きになったと言っているのですが、さて現実の私たちの30年後はいったいどんな世界になっているのでしょうね。

未来は過去より良いものだ。・・・この世界は徐々によりよきものへと成長している。なぜなら、環境に心を砕く人間の精神というものが、この世界をよりよきものにしているからだ。両手で、道具で、常識と科学と工業技術で。

・・・小説の最終章で語られる未来志向のこのセリフに、現実の世界の今を思い出した私は少しだけ胸の痛みを覚えたりするのでした。
でも、やっぱり、「夏への扉」の存在を信じて前を向いて行かなくては・・・・!!