独立FPの独白ブログ

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経済学者は誰のためにいるのか

「改革」が日本を不幸にした〜規制緩和の旗振り役 中谷巌氏が「懺悔」の告白》

↑これはつい先日図書館で読んだ週刊朝日最新号の記事の見出しです。
規制緩和、アメリカ型市場主義の推進、小さな政府、競争路線による活性化を大いに歌い上げていた改革派経済学者が「あの改革が間違いだった」と明言しているのですね。


私が読んだことのある中谷巖氏の本は7、8年前に文庫化された「痛快!経済学」だけですが、その中での中谷氏の主張はかなり明確なものでした。まず、本書の序章はこんな風に書かれています。

日本はバブル崩壊によって信じられないほどの大きな被害を受けました。日本の政治経済システムは、もたれあいや談合、官僚の汚職、大手銀行の倒産などでガタガタになってしまいました。また、グローバルエコノミーが進展する中で日本経済に対する国際的信用も残念ながら大きく落ち込んでしまいました。もちろんこのままでよいわけがありません。私たちは立ち上がって21世紀の日本社会をもう一度立て直さなければならないのです。


そして、本文では徹底した市場主義信奉の理論が展開されています。

  • マーケットこそ人類最大の発明だ!
  • マーケットは民主主義そのもの
  • 社会主義、計画経済ではやる気が出ない
  • ビルゲイツを生んだアメリカ社会は素晴らしい・・・と続きます。


格差の拡大とか悪質商品の横行など市場主義の問題点、政府介入の必要性の指摘も当然あるにはありますが、集団もたれあい的気質に満ち満ちた旧態然とした日本式経済のあり方を排除してアメリカが主導しているような開かれた、グローバルな、自由闊達な市場による経済システムへの移行こそが日本の進むべき方向である、という流れに終始しています。
当時まだノンポリ状態であった私ですら、ちょっとあんまりではないのかと何となく違和感を持ったほどでした。
そして、あとがきでは「本書を読めば、小泉改革がなぜ必要なのかということが、好き嫌いを超えて理解されるはず」などという「小泉改革万歳」宣言まで書かれています。


そんな改革路線まっしぐらの新自由主義旗振り学者の先鋒であった中谷氏が、ここへ来て180度の転向を宣言し、改革は間違っていたとの論調で書籍発表や発言をしているのです。
週刊誌等での最近の記事見出しは・・・

  • 「『改革』が日本を不幸にした」( 週刊朝日 2009.01.23)
  • 「米国流経済政策は日本社会を壊す」(週間金曜日 2008/12/19号)

・・・そして、昨年暮れに発売の新著は・・・

『資本主義はなぜ自壊したのか〜「日本」再生への提言』
構造改革の急先鋒であった著者が記す「懺悔の書」
金融恐慌、格差社会、環境破壊、食品汚染、すべての元凶は新自由主義にあった!

・・というわけです。(この新刊本は小泉氏、竹中氏など当時の改革派仲間の人達にも贈ったのだそうです。)


ここまで明確にこれまでと反対のことを積極的に発表しているということはよほどのことと思われます。
あらためて7年前に読んだ「痛快!経済学」を読み返してみると、中谷氏は市場主義を徹底することが日本人を幸福にする唯一の道であると本気で考えていた節が感じられます。
そしてまた同じように、最近の市場万能主義批判も本気で日本のためにと思っての言説であるように感じます。


「私が間違っていた」ということは学者としては非常に勇気のいることではないかと想像し、その誠意に心を打たれる想いです。ご自身が「私はアメリカかぶれであった」と自戒しておられるのですが、「改革が不十分だからマイナスが発生しているに過ぎない」と今だに言い張る偉大なる改革推進派経済学者先生も相当なアメリカかぶれであると言われています。
このひとの本心はいったいどんなものなのでしょうか? 学者は誰のためにいるのだろう??