- 作者: クラーク,池田真紀子
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2007/11/08
- メディア: 文庫
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私の頭の中の「市場原理至上主義への不信感」は先日読んだ安富歩著「生きるための経済学」で益々膨張の速度を増しています。
そして「自由主義が人間を拘束している矛盾」に気付いた私のなかで湧き出てくる自由とは何か、国家とは、幸福とは、富とは、などなどの疑問を解く鍵がないものかと、思想、哲学の世界への好奇心に結びつき、哲学の入門書を突然に読み始めたところなのです。
哲学に教科書などあり得ないというのが主要なテーマである中島義道著「哲学の教科書」を半分ほど読んだころ、本屋さんでふと手に取ったSF小説「幼年期の終わり」の裏表紙の宣伝文が目に焼きつきました。
【異星人との遭遇によって新たな道を歩み始める人類の姿を「哲学的」に描いた傑作SF】
というその紹介文に、私は珍しく迷うことなく即決でその文庫本を手にレジに向かいました。
SF小説人気投票でも常に上位に君臨する傑作SFということで前から気になっていましたし、著者であり名画「2001年宇宙の旅」の原案作者でもあるクラーク氏が今年3月に90歳で永眠したこともあって、いつか読まねばと思っていた矢先でもあったのです。
1953年に出版されたこの傑作は早川書房からも創元者からも発行されていますが、私が読んだのは1989年に一部修正された新版を新たに翻訳した光文社の古典新訳文庫でした。
人類はどこから来てどこに行くのかという壮大な宇宙哲学的思索。人類をはるかに超えた高い知性の前にもろくも権威を失う多くの宗教の神々。宇宙征服の野望を断念することと引き換えに得られた地球上の平和と人類の未来。
人間の幸福とは何か、人生とは、平和とは、未来とは、国家とは、宇宙とは、時間とは・・・・のめりこむとメマイがしそうなあまりに大きなテーマなのに、それでも考えずにいられない哲学的観念に包まれながら一気に読みました。
SFと聞けば、最新秘密兵器や超能力を駆使して繰り広げられる宇宙人との壮絶な戦いだとか、タイムマシーンで向かった原始の世界で恐竜に追いかけられるだとかの、荒唐無稽な軽〜い面白小説のことだと思い込んでいるSF嫌いも少なくないと聞きます。(無論こうしたSFアドベンチャーはSF小説の大事なジャンルなのですが・・・)
人類の過去と未来に思いを馳せ、地球と宇宙の始まりと終わりを哲学的に思索するものもSFなのです。
読みやすくかつ気品さえも感じられる上手な翻訳も手伝って非常に楽しませてもらいました。
やはり上質なSFは素敵です。SF食わず嫌いの方には、特にこの傑作古典SF小説をお奨めしたいのです。