独立FPの独白ブログ

この世界を少しでも美しい姿で後世に引き継ぎたい!

■不思議な城のアリス

女王国の城 (創元クライム・クラブ)

女王国の城 (創元クライム・クラブ)


有栖川有栖(ありすがわ・ありす)」という格調高いような或いはふざけたような名前のミステリ作家を知ったのは多分7年ほど前、長年遠ざかっていた推理小説を再び読み始めた頃でした。
本格長編推理デビュー作の「月光ゲーム」でその世界に引きづり込まれ、立て続けに読んだ江神シリーズ3部作(月光ゲーム〜孤島パズル〜双頭の悪魔)の魅力はなんとも言えない甘美なミステリワールドでした。


主人公である「英都大学・推理小説研究会」の5人のメンバーが行く先々で何故か連続殺人事件が発生することや、名探偵が最後の最後で謎解き解説を展開するパターンなどはいかにも本格推理小説の「お約束」ムードです。
こういうお約束は「類型的で陳腐である」と感じるよりも「このパターンが楽しみである」ということで、ミステリファンには安心と安らぎをもたらすものですね。ちなみにアリスは著者名と同姓同名であり、マリアとは有馬麻里亜というお名前です。


アリスとマリアと江神先輩、望月、織田の5人組のシリーズは3作目発表からなんと15年以上も書かれず、ようやく昨年夏に4作目が発売されたのです。分厚く重い本を持ちたくない私としては(お金のこともあって)前記3冊と同様に文庫になってから読むつもりでいたのですが、待望のシリーズ最新作をどうにも待ちきれず(文庫化は通常3年後ですから)、単行本を読むことにしたのです。


アリスもマリアも江神さんも皆、大学生であり、バブル経済崩壊直後の設定で、読んでいる今とは日本人の心象はかなり異なるものがありそうですが、そもそも現実社会からひょいと隔絶された陸の孤島に近い場所が舞台なので、あまり違和感はありません。


このシリーズのファンであり(最新作を待ち望んでいた)私には何の不満もあるはずもなく、メンバー間で交わされる会話に挿入されるUFOネタなどの逸話や、小説などのウンチク話し、などの数々をちょっとしたエッセイでも読んでいるような感覚で楽しめるミステリなのです。
ただ、このシリーズのファンではなく、純粋に謎解き小説として読むとすれば、若干のパワー不足を感じるのではないかと思いました。


そういう意味で、シリーズ未読の方にはまずは文庫の「月光ゲーム」か「孤島パズル」を(双頭の悪魔は分厚すぎるので)先に読まれることをお奨めいたします。