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■幽霊人命救助隊

幽霊人命救助隊 (文春文庫)

幽霊人命救助隊 (文春文庫)



高野和明さんをはじめて知ったのは「13階段」でしたが、その時からこの作家の本は文庫化されるたびに買っております。(13階段→グレイブデッガー→K・Nの悲劇、そして本書)


一般に小説の単行本が文庫化されるのは、初版発売から3年程度経ってからというのが相場のようです。場合によってはまる3年も待つことになりますから、時代が変わると価値が下がる作品も中にはあるかとも思います。
しかし、自殺がテーマのこの小説は3年経ってもまったく価値が下がることなく、むしろその存在意義を増しているかも知れません。


この小説が月刊文芸春秋に連載されたのは2003年ですが、統計を見てみればこの年の自殺者総数は3万4427人と史上最多でした。作者は社会現象ともいえそうな自殺激増の異常さに心を動かされつつ書いていたのでしょう。
「幽霊人命救助隊」の題名が示すとおりこの小説は一種の寓話あるいはファンタジーですが、その内容は実は徹底的にリアルです。


中小企業の経営難、家庭の不和、学校でのいじめ、男女の愛憎、家族愛の喪失、正義感の挫折、金融機関や消費者金融の姿勢の問題、多重債務の現実、そしてうつ病の蔓延・・と、ありとあらゆる社会問題の現実が詳細に紹介され、それらをもたらす社会の病根についても憤りを込めて語られるという、まことに重い重い物語です。社会問題を暴き出す新書版なら10冊くらいになりそうな沢山の課題の提示とその解決策の模索を、ユーモア小説の形式で表現した、かなりユニークな小説であります。


あまりの問題の大きさゆえか、或いは作者の思いの強さゆえか、少々長い感も無きにしも非ずですが、途中4人の救助隊たちのやり取りなどには道中もの的な楽しさもあり、最後はふっと救われる気分になり、爽快とまではいえませんがホッとする読後感でした。


「幽霊人命救助隊」・・この題名を見て読んでみたいと思う人なら、きっと面白いと思いますし、高野和明さんの他の作品を好きな方なら、間違いなく満足できると思います。(文庫版596頁)