独立FPの独白ブログ

この世界を少しでも美しい姿で後世に引き継ぎたい!

■地下鉄(メトロ)に乗って

地下鉄に乗って (講談社文庫)

地下鉄に乗って (講談社文庫)


先月から公開されている映画の原作、浅田次郎著:『地下鉄(メトロ)に乗って』の文庫本を読みました。(映画は見てません)・・浅田氏原作のものではもうひとつ「椿山課長の7日間」も公開中ということですから、このひとは今大人気なのですね。


高度経済成長〜バブル崩壊〜構造改革大合唱の日本社会の流れは、ある意味では「もっとも大切なもの」を捨て去ってしまう、或いは置き忘れ続けてきたという悲しい時の流れでもあることはもはや明白です。
その大事なことに薄々気付きながらも、そのことを表立って表明することが、まるで時代の流れに追いつけない臆病者であるかのように勘違いして、口を閉ざしていたひとは実は結構多いように思います。(私自身も一時期大いに勘違いしていたのです)


ひとを思いやること、優しくすること、居住いを正すこと、謙虚であること、礼節を重んじること、そして世のため人のために働くこと・・・といった心構えや行動規範を、古臭い昔の価値観のごとく隅に追いやろうとしてきたツケが、今の社会のあらゆる問題の根源であると私は感じています。


浅田次郎氏の本はまだ2冊目ですが、このひとの小説は美しさも醜さも、潔癖さも狡猾さも、みなひっくるめてみんな人間なんだというような、人間そのものへの愛情から出来上がっているように感じます。ひとは誰もが心で出来上がっているとあらためて思い知らされます。


『地下鉄に乗って』の設定は父親を憎み嫌い避け続けている男が、遠い過去へとタイムスリップしてしまいその父親の人生の変遷をなぜか垣間見るというものですが、ファンタスティックなSF的世界と昭和の街並みを詳細に描写したリアルな世界とが見事に融合して不思議な緊張感を持続しつつドラマが展開され、私はこの世界にすぐに引き込まれてゆきました。


さあ泣け、感動しろの押し付けがましさは皆無ですが、随所でほろリとさせられます。
280頁ほどの小編であることから、ここそこに「どうしてなの?」という疑念が残らないわけではありませんが、そんなことよりも、親子の関係について、人生の紆余曲折について、人と人との心の触れ合いの仕方についてなどなど沢山のことについて問題提起を投げかけられているという感触がありました。
デビュー2年目の作品にして吉川英治文学新人賞受賞作のこの初々しい作品に触れることは必ず浅田ワールドへの誘い水となるでしょう。ちなみに私は「壬生義士伝」を既に買ってあるのです。