独立FPの独白ブログ

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■多島斗志之の2冊目は大当たり!

症例A (角川文庫)

症例A (角川文庫)

少し前に、2冊目はなかなか難しいという日記を書きました。初めて読んでこれはと思った作家の2冊目に読む本が、続けて面白いということはそうそうあるものではないというような主旨の愚痴ネタでした。


しかし、以前に「不思議島」というチョット変わったミステリで好きになった多島斗志之氏の「症例A」は大いに満足できる2冊目となりました。実際には最初に読んだ不思議島よりもっともっと強烈に面白く、560頁を3日ほどで完読しました。読み終えた直後にも「ああもっとこの世界に浸っていたい」と思うほど、私はハマってしまいました。人間の心の弱さと切なさとに共感を抱きつつ、人を救い、人に救われる人生の喜びを感じながら、読み進むことそのものを楽しめる稀有な小説ではないかと思います。人の心の問題に興味をもつひとにはお奨めできる小説です。


設定も展開も文句なく面白いわけなのですが、なんと言っても文章が知性的で品格も高くそしてウマイ、登場人物の真剣さが清々しい、とっても素晴らしい作品でした。ただし、最後にあっと驚くどんでん返しとか全ての謎が解明されるカタルシスが用意された類のミステリでは全くありません。冷静に見れば偶然の重なり具合に少々不自然さを感じかねないような状況設定ながらも、この小説にははじめから終わりまで一定以上のリアリティが漂っています。それは、巻末の参考文献の膨大さを知れば納得できるのです。著者は大変な勉強家のようです。


そういえば数ヶ月前にWOWWOWで見たアメリカ映画の「アイデンティティ」は思い切り後味の悪い多重人格ものでした。そんなおどろおどろしいサイコミステリの題材にされることの多い多重人格(解離性同一性障害)がテーマなのですが、重い心の病と向き合う人の辛さ厳しさを見せ付けられると同時に、人間の優しさと勇気と向上心に救いを感じることのできる味わいのある小説でした。人間誰しも「紙一重」。心の危機を救うのは心でしかありません。みなさん優しい人になりましょうね。